作曲は三浦秀秋さん、総合演出を土屋史人先生が担当

現在まで全日本吹奏楽コンクールに10回出場している静岡県の浜松聖星高校吹奏楽部。

毎年オリジナルのミュージカル風ステージ(「風」は音楽監督・土屋史人先生が絶対に譲れないこだわりだそうです)を上演してきましたが、2024年2月11日に開催された第27回定期演奏会では、オザワ部長が脚本を担当した『おおきく息を吸い込んで!』が披露されました。

すべての音楽は三浦秀秋さんが作曲し、歌唱指導は田上知穂さんが担当。

そして、総合演出は土屋先生でした。

土屋先生(後列中央)、三浦秀秋さん(後列右)、司会の北島直子さんと。

最初に脚本のオファーをいただいてから、ずいぶん悩み、浮かんでくるアイデアをまるで粘土細工のようにひとつの形にしてはこね直し、また別の形にしてはぺちゃんこにし……と試行錯誤を繰り返しました。

ヒントになったのは、ドキュメンタリー書籍『吹部ノート③』の取材の際に土屋先生から伺った、土屋先生が浜松海の星高校吹奏楽部(浜松聖星高校の前身で、当時は女子校だった)の指導を始めてから全日本吹奏楽コンクールに初出場するまでの道のりでした。

海の星の初出場のキーとなった「心に響く大きな音」を物語の軸にして、その世界にふさわしい登場人物を設定していきました。事実ではなく、フィクションということで、学校名は「浜松梅星高校」になり、顧問の先生も女性に、コンクールの名前も「全日本コンクール」「中日本支部大会」などに置き換えられました。

物語の主人公は気弱な少女

主人公は、フルート・ピッコロ担当の音無カスミ。

幼いころから内気な性格で、人前では自分の思いを口にすることができず、いつもうつむきがちでモジモジしているような少女です。

カスミは、うまく話せないからこそ、自分の声の代わりにしたいと楽器を始めました。

しかし、楽器でもかすれた音しか出せず、浜松梅星高校では2年生まで補欠。コンクールメンバーの演奏をいつも舞台袖から眺めていることしかできませんでした。

大きな音が出せず、部内での存在感も霞(かすみ)のよう……。

「音無カスミ」という名前は、カスミにとって皮肉でしかありませんでした。

そんなカスミは、3年生になるとついにコンクールメンバーに選ばれ、しかも、ピッコロを任されることに。しかし、相変わらず大きな音は出せず、何かあると中学時代からの同級生で部長を務めるユイカの後ろに隠れるところも変わっていませんでした。

いよいよコンクールシーズンが訪れ、浜松梅星高校は勝負の中日本支部大会に挑むことに。これまで浜松梅星高校は9年連続で支部大会止まり。「今回こそは全国大会へ!」という意気込みはあるものの、練習には停滞感が漂っていました。

しかも、大事な大会を前にして、チューバのレンが「JKっぽく遊びたい」、トロンボーンのマリナが「第一志望に合格するために勉強したい」と練習をおろそかにし、それが原因で部内に不協和音が響き始めます。

リハーサル風景。副部長のサラと対立する、JK志向のレンと勉強家のマリナ。

部員たちは衝突を繰り返しますが、レンは繁華街でギャル仲間と遊びながら、マリナは特進クラスの友達と勉強しながら、「実は自分たちは吹奏楽が大好きなんだ。自分たちが本当にやりたいことは吹奏楽なんだ」と気付き、部活に戻ってきます。

そんなレンとマリナの心の変化をまだ知らない副部長のサラは、音楽室にやってきたふたりにきつく当たってしまい、部内は大揉めに。

罵り合う声が響く中、それまでは自分の思いに蓋をして生きてきたカスミがついに殻を破って——。

吹奏楽部員たちが役を好演

脚本を仕上げた後、三浦秀秋さんが音楽をつけてくれました。音源と楽譜が送られてきたとき、すぐに「これはすごい!」と感じました。

コンクールの話なので、課題曲っぽさを詰め込んだ音楽もあれば、カスミの気持ちを表すしっとりしたバラード、レンとマリナとサラのぶつかり合いを描く曲、さらにはみんなの思いがひとつになったときの感動的な曲……。

一気に脚本に血が通い、脈打ち始めるのを感じました。

そして、定期演奏会前、リハーサルに伺ってみると、そこにはまさしくカスミやレン、マリナたちがいました。

特にカスミを演じた3年生の花木希さんはハマリ役で、内気でおどおどしていたカスミと覚醒した後のカスミを見事に演じ分けていました(レン役の團惠さんの演技も多くの方から高評価を受けていました)。

このカスミの成長、さらにほかの部員たちの成長や相互理解がとても感動的で、自分の脚本だということはすっかり忘れ、リハーサルも本番も見入ってしまいました。

カスミ役の花木さんをオザワ部長と三浦秀秋さんで囲み、カスミっぽいおどおどポーズ。
こちらは覚醒後のカスミポーズ。花木さんによれば、おどおどしたカスミのほうが自分に近いとのことでした。

脚本が僕の手を離れ、自立した世界として動き、生きているのを感じましたし、実はそれこそが創作においてもっとも重要なことなのです。

定期演奏会ではキャストのみなさんは完全にその役柄に入り込み、歌も演技も感情がグッと込められていました。もちろん、演奏で参加していた部員さんたちも、ときには楽器を奏で、ときには部員役として控えめに演技をし、「浜松梅星高校吹奏楽部」という架空の場をリアルなものにしてくれました。

また、僕の脚本を調整しながら演出をしてくれた土屋先生、歌唱のみならず演技の指導もしてくれていた田上知穂さんなど、多くの方の指導やサポートがあったからこそできた作品です。

『おおきく息を吸い込んで!』に関われたことを心から幸せに思います。

定期演奏会から数日経ちましたが、まだ頭の中にはカスミやキャストのみなさん、部員のみなさんの歌が響き続けています。




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