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少女は驚くべき才能に目覚め…
オザワ部長の最新吹奏楽小説『空とラッパと小倉トースト』が2023年3月16日(木)に発売されることが決まりました。
すでにカバーデザインも公開されています。
イラストはおとないちあきさん。
デザインは以前にも『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』(ポプラ社)を担当してくださり、ほかに『君の膵臓をたべたい』『夜に駆ける YOASOBI小説集』など多数の話題作を手掛けていらっしゃるbookwallさん。
作者もお気に入りの素晴らしいカバーになりました。
そして、帯にあるとおり、愛知工業大学名電高校吹奏楽部の全面協力により、この作品は出来上がりました。
なお、『空とラッパと小倉トースト』がこれまでの作品と違うのは、本作が「ほぼ完全なフィクションである」という点です。
なぜフィクションにしたのかというと、部活動に対する逆風が強まり、一部には誤解もあり、なおかつ少子化とコロナ禍で部員数も減少しているいま、多くの人に部活動や吹奏楽の良さや必要性というものを知ってもらいたい、吹奏楽に興味を持ち、好きになってもらいたいという思いがあったからです。
ノンフィクションは、そういう意味ではなかなか吹奏楽関係者や経験者以外には届きにくいものなので、より一般に開かれたフィクション=物語という方法を選びました。吹奏楽の経験や知識がまったくなくても楽しめるものにしようと考え、執筆に取り掛かりました。
結果的には、フィクションを選んだことによって初期の目的よりもさらに深い「人々の人生と運命のドラマ」を描くことになりました。
物語のあらすじ
表4(いわゆる裏表紙)側の帯にはこのようなあらすじが書かれています。
“ふたりの異能のトランペット奏者、そして、仲間たちの青春(おと)が響き合う!”
“福岡南部の山奥で育った天真爛漫な少女・天川美森。育ての親の祖母を亡くして名古屋にやってきた美森は、桜の下でトランペットを吹く天才少年・安曇響と出会い、まったくの未経験で全国に名だたる名門・愛知名晋高等学校吹奏楽部へ飛び込むことを決める。そこで驚くべき才能に目覚めた美森は、トランペットの音色とともに思いもしない運命へと導かれ——”
「うちは美しか森から来よった美森ばい」
主人公の天川美森(てんかわ・みもり)は、山奥の森の中にたつ一軒家で祖母・丸代(マル婆)と暮らし、筑後弁を話す少女。
小柄で、どんぐりのような可愛い目をしていながら、いつも髪はボサボサのままという少し変わった子です。
丸代の没後、親戚を頼って名古屋にやってきた美森は、偶然にも「吹奏楽の聖地」名古屋国際会議場の近くでトランペットを吹いていた同い年の安曇響(あずみ・きょう)に出会います。
響は天才トランペット少年として地元では有名でしたが、とある心の傷を抱え、全日本吹奏楽コンクールで金賞をとることを自らに課して、吹奏楽の名門・愛知名晋高校吹奏楽部へ進学することが決まっていました。
まったく吹奏楽もトランペットも知らない美森でしたが、響の吹くトランペットの音が心に残り、それによって運命が大きく変わっていきます。
「うち、吹奏楽部に入るったい!」
愛知名晋高校で再会した美森と響は、ともに吹奏楽部に入部。響に想いを寄せる水月(アルトサックス)、元野球部でお調子者のガンちゃん(トロンボーン)、兄2人が名晋の部長だったマジ子(バスクラリネット)、見た目も言動もやや不良っぽいカナピー(フルート)……といった個性的な仲間たちとともに活動を開始します。
すると、ど素人だった美森は驚くべきトランペットの才能に目覚め、それによって自身の生い立ちにもかかわる複雑な運命の歯車が動き始めます。
残酷な現実に直面した美森は、さらにトランペットへとのめり込んでいきます。
「うちにはもう、本当に本当に音楽しかなかけん」
美森は響と競い合うように才能を伸ばし、高校生活最後の吹奏楽コンクールで自由曲《森の贈り物》を奏でます。
果たして、「森の贈り物」とは何なのか。
美森はどこからやってきて、どこへ向かうのか。
そして、響や仲間たちは……。
人々の人生と運命が、愛知名晋高校吹奏楽部の演奏する音楽とともにクライマックスへ向けてクレッシェンドしていきます。
本当に「生きている」登場人物たち
この作品を書き出す前には、不安もありました。
ただ、取材に協力してくださった愛知工業大学名電高校吹奏楽部の伊藤宏樹先生や顧問の先生方、部員の皆さんの直向きな姿に励まされ、また、2022年の全日本吹奏楽コンクールで同部が金賞を受賞した《森の贈り物》の演奏に感動を与えられ、勇気を持って書き進めていきました。
ほかにも多くの方が「きっと良い作品ができるから」と背中を押してくれました。
いちばん大きかったのは、美森や響といった登場人物が途中から、あたかも本当に意志を持った「生きている人間」のように自然に動き始めたことでした。
文字で表現していく上では数えきれないほどの悩みや苦しみはあったものの、作者である僕自身が「彼ら」の青春を現実のように追いかけ、「彼ら」のことを大好きになれたことで、この物語は無事に「行き着くべきところへ行き着いてくれた」と思っています。
単に吹奏楽強豪校の全国大会へのチャレンジや栄光を描いたわけではなく、いくつもの人生や命や願いを描いた作品に(最終的に)なりました。
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僕は高校時代に小説家を目指し始め、大学では芥川賞作家の三田誠広先生に師事して文学を学びました。これまで多くの媒体に記事を書き、ドキュメンタリー作品やノンフィクション小説は何冊も書いてきましたが、ようやく夢だったオリジナル小説を発表することができます。
前述したように、現在の吹奏楽をめぐる状況を踏まえ、すべての面で最善であると考えて選んだ手法がフィクション=小説でした。さまざまな状況が、夢を実現させてくれたと言っていいでしょう。大きな挑戦になりますが、「いまこれに挑まなければならない」という責務も感じていました。
しばしば語られるように、フィクションというものの最大の難しさは、最後まで書き切るということです。僕自身、学生時代から多くの物語を書き始めては、途中で頓挫してきました。
結局のところ、今回僕に最後まで書き切らせてくれたのは、物語の中で命を得た美森や響や登場人物たちであり、また、青春という混沌の中でも真っ直ぐに進み続ける(現実の)吹奏楽部の若者たちのひたむきな姿だったように思います。
ぜひ多くの方に『空とラッパと小倉トースト』をお読みいただき、作品や登場人物たちを好きになっていただけたら幸いです。
(オザワ部長)