吹奏楽の名門校の挑戦

東京の小平市立小平第三中学校(小平三中)といえば、全日本吹奏楽連盟コンクールに14回の出場を誇る名門校です。

現顧問の澤矢康宏先生が着任してからも5年連続で全国大会に出場し、うち2回は金賞に輝きました。

また、アンサンブルコンテストでは、お家芸の打楽器パート(アンサンブル限定で管楽器やコントラバスから助っ人に来る奏者含む)が全国大会で優秀な成績を残し続けています。

ところが、昨年のコンクールは残念ながら全国大会出場はならず、今年3月に打楽器パートが出場を予定していた全日本アンサンブルコンテストも新型コロナウイルスの影響で中止。

オザワ部長も全日本アンサンブルコンテストの中止が決定した後、打楽器パートが最後に保護者に向けて演奏を披露した場に立ち会いましたが、こみ上げてくる涙をこらえきれずに嗚咽を漏らすメンバーの姿が今でも忘れられません。

その後、休校と部活停止が長く続き、吹奏楽コンクールも中止となってしまいました。

高校生であれば、まだ自分たちで心のバランスをとったり新しい目標を見つけたりすることもできるかもしれませんが(それも困難なことだとは思います)、吹奏楽部の中学生にとって今回のコロナ禍は非常に厳しく、難しいものだったことと思います。

目標や部活の意義を見失ったり、モチベーションが低下してしまったりするのも無理はありません。

小平三中の部員たちも、おそらくそれぞれに悩み、苦しみ、迷ったことでしょう。

そして、いよいよ学校が再開されたとき、澤矢先生が選んだのは、「徹底的に感染症対策をする」ということでした。

ビニールパーティションで飛沫対策

澤矢先生は、小平三中の感染症対策を次のように教えてくれました。

音楽準備室には、各パートごとのマイペット、サニーミストが置いてあります。
音楽準備室の机には、ペーパータオル、ポリ袋、使い捨て手袋があります。
マイペットで、練習教室とビニールシートパーティションの消毒をします。
楽器のマウスピース等の消毒はサニーミストを使用します。
使い終わったペーパータオルは、ポリ袋に入れて音楽準備室のゴミ箱に捨てます。

パートごとに用意された薬剤、キッチンタオルなど。

迷える中学生たちにとって、もっとも必要なものはやはり「音楽」です。

とはいえ、新型コロナウイルスの影響を受ける社会において、公立中学校の部活動は大きな制約を受けます。いつまた部活がストップしてしまうかという不安もありますし、部員たちや保護者に安心を与える必要があります。

誰も経験したことがない新型コロナウイルスの影響下で部活を続けるのに、「こうすればいい」という正解はありません。今、各校がそれぞれの対策を講じて部活に臨んでいます。

澤矢先生は、部員たちが「音楽」し続けられるための選択として、徹底した感染症対策を選択しました。

『小平三中感染対策ガイドライン』を作り、普通教室に7人以上は入らず、2メートル以上の間隔を取り、個人パート練習をしています。
練習で使った教室の消毒を徹底しています。
また、少人数でのアンサンブルや分奏では、ビニールパーティションによって飛沫予防をし、使用後に消毒しています。
もちろん、手洗いの徹底と演奏以外はマスクをしています。

ハンガーにビニールシートを張り、感染症対策。
現在はパート練習や分奏を中心に練習を行なっているそうです。
ドラムセットはマスクをしつつ、ディスタンスをとっています。

これだけのことをするのは非常に手間がかかりますし、不自由も多いでしょう。準備や消毒などに練習時間が奪われ、神経も使います。

けれど、これだけの対策からは、部活と「音楽」を守る、という強い思いが感じられます。

今年度部長の3年生、クラリネットパートの松井莉瑚さんは現在の思いを次のように語ってくれました。

今後、どうなるかが分からないので、今は目の前の目標に向けて頑張っています。ですが、「コンクールがない」と思うととても寂しいです。受験もどうなるかまだわからない状態なので、部活や勉強は正直不安です。
けれど、去年のコンクールから今まで頑張ってきたことは決して無駄ではないと思うので、それを活かして、来年に繋ぐことが3年生としての役目でもあるのかなと思います。
まだまだ不安なことはありますが、支えてきてくださっている方たちに感謝の思いを持ちながら一つ一つの目標に向かって頑張って生きたいと思います。

「寂しい」「不安」といった気持ちを抱えながらも、自分たちのこれまでの活動、そして、これからの活動に意義があると信じて進んでいこうという姿に胸を打たれます。

「音楽」を守ることは、部員同士の絆を守ることでもあります。

小平三中の試みの先に、「あのとき、頑張ってよかった」と思えるような明るい未来があることを願ってやみません。

頑張れ、小平三中!



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