足元から這い上がってくる感動
2月26日、東京・池袋の東京芸術劇場にてプロ吹奏楽団・東京吹奏楽団(東吹)の第67回定期演奏会が開催されました。
「温故知新II」と題された本コンサートでは、ジャック・オッフェンバック《喜歌劇「天国と地獄」序曲》、リヒャルト・ワーグナー《エルザの大聖堂への行列》、ロバート・ジェイガー《シンフォニア・ノビリッシマ》、伊福部昭《バンドのためのゴジラ ファンタジー》、そして、オットリーノ・レスピーギ《交響詩「ローマの松」》といった吹奏楽で長く愛されてきた名曲(オリジナル、編曲)が演奏されました。
指揮は東京吹奏楽団の名誉指揮者で、東京音楽大学で長年後進の指導にあたられてきた汐澤安彦先生。
汐澤先生は、聞くところによれば腰痛とのことで、今回は椅子に座っての指揮。しかし、全身から放たれるオーラ、大きな音楽の流れをつくり上げてバンドを導いていく指揮は素晴らしいのひと言。
楽団も、非常に安定した落ち着きのあるサウンドの中からときおり情熱がほとばしる演奏で、プロフェッショナルの吹奏楽の醍醐味を味わわせていただきました。
特に印象に残ったのは、粘るようなテンポで進んでいくリリカルな《エルザ》(終盤の金管の響きは圧巻!)。パイプオルガンが加わった重厚感のあるサウンドは、客席にいると足元から感動が這い上がってきて、生演奏を聴く喜びと快感を味わわせてくれました。
また、こちらもパイプオルガンとともに奏でられた《ローマの松》のラスト、「アッピア街道の松」もダイナミックな音の奔流に揺さぶられました。ステージ上方で渦を巻く倍音が目に見えるようでした。
また、客席でバンダの演奏もあり(ソーシャルディスタンスを意識した位置です)、ホールいっぱいに吹奏楽サウンドが満ちあふれました。
どの曲も、演奏後に長く長く拍手が続いていたのも印象的でした。
汐澤先生や東吹の素晴らしさはもちろんですが、やはりこのコロナ禍で改めて吹奏楽のライブの楽しさ、心地よさを多くの観客が再確認したことの証のようにも思えました。
そして、予定されていたプログラムをすべて終えた後の4曲のアンコール(《主よ人の望みの喜びよ》《ティコティコ》《エル・クンバンチェロ》《星条旗よ永遠なれ》)の開放感!
《主よ人の望みの喜びよ》は「主よ吹奏楽の喜びよ」に思えるような美しい調べに思わず目が潤んでしまいました。
この定期演奏会は昨年10月に予定されていたものが延期になり、ようやく開催にこぎつけたものです。その間、たくさんの葛藤、たくさんの悩みや苦労があったことでしょう。
今回、こうして観客の前で演奏できることになり、楽団の皆さんの喜びがアンコールの音の中に溶け出しているように感じました。
まだまだコロナに対する警戒や対策は必要ですが、今後はプロやスクールバンドの演奏がたくさん聴けるようになることを願わずにはいられません。
最後に、会場には吹奏楽界でご活躍の方々が多数来場されていましたので、終演後に撮った記念写真を。