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《宝島》《イン・ザ・ムード》など吹奏楽が劇中で!
8月26日(金)から、ブラバンピープル注目の映画『異動辞令は音楽隊!』(原案・監督・脚本/内田英治)が全国公開されています。
犯罪捜査一筋30年の鬼刑事・成瀬司(阿部寛)が、上司からの異動を命じられた先はなんと警察音楽隊だった。
捜査への未練を断ち切れない成瀬だったが、トランペット担当・春子(清野菜名)ら音楽隊のメンバーたちとぶつかり合いながらも未経験のドラムを練習。バラバラだった音楽隊にも一体感が生まれ、吹奏楽の演奏の喜びが広がっていく。
ところが、そんなとき、成瀬が追い続けていた事件に新たな展開がーー。
犯罪捜査、音楽隊の活動、家族の絆……。
『異動辞令は音楽隊!』は、そんな3つの要素が重なり合うエンターテインメント作品になっています。
注目は、なんと言っても警察音楽隊という吹奏楽を奏でるバンドが中心になっている点です。
劇中では、ブラバンピープルにはお馴染みの曲である《宝島》《ボギー大佐》《イン・ザ・ムード》などが奏でられます。
阿部寛さん、清野菜名さん、高杉真宙さんといった俳優陣が演奏するシーンがありますが、実際のサウンドを担当したのは、日本を代表するプロ吹奏楽団のひとつ、シエナ・ウインド・オーケストラ。
しかし、俳優陣もかなり楽器の練習を重ねて、あたかも実際に演奏しているように見えるほどの演技を見せています。
特に、清野菜名さんのトランペットは「実際にこういう吹き方をする奏者っているよな……」と思えるくらいリアルです。
鬼刑事だった成瀬が未経験のドラムに挑戦し、音楽隊のメンバーと心の交流を深めていくことによって、失われた輝きを取り戻していく、というハートウォーミングな物語も、演奏シーンが丁寧に描かれていることでより共感できるものになっています。
音楽担当・小林洋平さんのこだわり
さて、吹奏楽が大フィーチャーされたこの『異動辞令は音楽隊!』の音楽を担当したのが、作編曲家でサックス奏者の小林洋平さんです。
本作では映画の劇伴(サウンドトラック)はもちろんのこと、劇中で音楽隊が演奏する曲のセレクトとアレンジ、指揮、サクソフォン指導を一手に引き受けました。
東京理科大学で宇宙物理学を研究した後、アメリカの名門・バークリー音楽大学で映画音楽を学んだという異色の経歴を持つ小林さん。
実は、オザワ部長と小林さんは同じ神奈川県立横須賀高校の出身(オザワ部長にとっては遠い後輩)で、しかも通っていた塾も同じ。そんなご縁もあって、今回の映画についてリモートインタビューをさせていただきました。
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◇最初に、小林さんの吹奏楽歴、音楽歴を教えていただけますか?
「中学校に入学して、吹奏楽部に入ったのが最初です。僕はもともとヴァイオリンを習っていたのですが、中学校には弦楽部がありませんでした。ひと足先に吹奏楽部で活動していた兄にインストゥルメンタルバンドのTスクェアやサクソフォン奏者のデイヴィッド・サンボーンを聴かせてもらい、『サックスってカッコいいな』と憧れを抱いていたので、自分もサクソフォンを担当することにしました。中学、高校と吹奏楽部で活動し、東京理科大学ではジャズ研究会に所属しました。宇宙物理学も大好きだったんですけど、やっぱり音楽への思いが捨てきれず、大学4年のときにバークリー音楽大学のオーディションを受けて、卒業後に奨学金をもらってバークリーに通うことになりました」
◇2006年にバークリー音楽大学をご卒業。帰国後はテレビドラマや映画、報道番組などの音楽を担当され、大活躍されていますね。今回、『異動辞令は音楽隊!』の音楽を担当することになった経緯は?
「今回の映画の監督は『ミッドナイトスワン』(日本アカデミー賞 最優秀作品賞受賞)などで知られる内田英治監督なんですが、『ミッドナイトスワン』の助監督の松倉大夏さんも僕たちと同じ横須賀高校の出身で、以前一緒に仕事をしたことがあったんです。その松倉さんから『今度、吹奏楽の映画を作るから、吹奏楽の監修をしてくれない?』を声をかけられて。内田監督に会って話をしていくうちに、『この映画は吹奏楽監修や選曲、劇伴を分業でやるのではなく、トータルで任せてもらったほうが良いものになる』と直感し、音楽関係を一括して僕が引き受けることになりました」
◇劇中で音楽隊が演奏するのは吹奏楽ですが、劇伴はピアノと弦楽器が印象的な音楽になっていますね。
「撮影にも同行して、監督とずっと相談していたんです。『異動辞令は音楽隊!』は阿部寛さん演じる成瀬の挫折と再生の物語。劇伴も吹奏楽にすることもできましたが、音楽隊の演奏とのカラーの差が出ないと考えました。成瀬の悲哀など、心の動きにフォーカスしていくとしたら、私の中では『ピアノとストリングスをメインにしていくのがいいのではないか』という結論に達しました。すると、ちょうどそのタイミングで監督から『劇伴はピアノとストリングスで』というメールが来ました。監督も僕とまったく同じことを思っていたんです」
◇なるほど、劇伴が吹奏楽ではないのも納得です。さて、劇中では俳優さんたちが楽器演奏やカラーガードにチャレンジしていますね。
「監督からは『見ていて違和感のないものにしたいから、楽器の練習も本格的にやってほしい』というリクエストがありました。中でも、清野菜名さん演じる春子は音大出身という設定だったので、音楽隊の中でもいちばん上手に見えないといけない。もちろん、清野さんにトランペットの経験はなかったんですが、非常に身体能力が高い方ということもあって、楽器演奏の飲み込みも驚くほど早かったです。俳優さんたちの全体練習のときには、なんと《イン・ザ・ムード》のトランペットソロを自分の音でできていたので、見ていた僕も涙が出るくらい感動しました。もちろん、他の楽器を担当した俳優さん、カラーガードの俳優さんもみんな一生懸命に取り組んでくれていました。『俳優さんというのは、集中力と努力で役柄を消化し、形にするすごい人たちなんだ』と感じました」
◇主演の阿部寛さんのドラムはいかがでしたか?
「阿部さんは『楽器は苦手』とおっしゃっていて、リズムをとるのも難しいというレベルからのスタートでした。しかも、多忙な方なので練習の時間もなかなかとりにくい状況。思うように上達できない時期もあったんですが、あるときを境にグッとうまくなっていって。やはり一流の俳優さんはさすがだと思いました」
◇物語の後半の演奏シーンは、音楽隊が本当に演奏しているみたいでしたね。
「映画から聞こえてくる音はシエナ・ウインド・オーケストラが演奏していますが、撮影のときに俳優さんたちは流れてくる音に合わせて実際に演奏もしているんです。《宝島》もちゃんと演奏できているんですよ」
◇阿部さんや俳優の皆さんが《宝島》を演奏しているシーンは、吹奏楽を愛する者として胸が熱くなりました。
「監督から『吹奏楽で好きな曲のアンケートをとったら、トップに来るのは何?』と聞かれ、『やっぱり《宝島》ですかね』と答えたところから、この曲の採用が決まりました。ちなみに、サクソフォンソロの吹き替えは上野耕平さんが担当しています」
◇小林さんの劇伴で特に工夫されたのはどのシーンの音楽ですか?
「阿部さん演じる成瀬が、かつては自分も参加していた捜査の会議に無断で入っていき、後輩から冷たい言葉を浴びせられるシーンがあります。そこでは音楽の合間にクジラの鳴き声を入れているんですよ。大海原の中で孤独なクジラが出すような声を使うことで、成瀬の心にある思いを表現しています。ほかにも、緊迫した犯罪のシーン、警察官が活躍するアクションシーン、クライマックスへ向かうシーンなどもこだわっていますので、よかったら劇伴にも耳を傾けてもらえたら嬉しいです」
◇最初は作品全体を楽しんで、次は音楽に注目して……と2回見てほしい映画ですね。小林さんから見て、この映画『異動辞令は音楽隊!』はどんな意味を持つ作品でしょう?
「人生では長く築き上げてきたものが突然崩され、暗闇に突き落とされることがあります。もしもそうなったとき、別の生き方を通して自分を再生していくことができる。この映画からそんなメッセージが伝わるといいなと思っています。僕も映画は大好きですが、映画作品というものはただ消費されるだけではなく、人の心に残って、背中を押すものであってほしいですね」
◇それでは最後に、吹奏楽経験者でもある小林さんからブラバンピープルへひと言お願いします。
「この『異動辞令は音楽隊!』は吹奏楽を愛している人、吹奏楽に青春をかけている人に楽しんでほしい映画です。選曲、俳優さんたちの頑張り、演奏シーンの精度などこだわり抜いて作られています。ぜひ吹奏楽部員や団員の皆さん、吹奏楽の経験がある皆さんに劇場へ足を運んでいただきたいです。そして、もっと吹奏楽や音楽を好きになっていただけたら嬉しいです」
Profile 小林洋平(作編曲家・サックス奏者)
神奈川県葉山町出身。神奈川県立横須賀高等学校、東京理科大学の宇宙物理学研究室を経たのち、奨学金を得てバークリー音楽大学映画音楽科へ留学。在学中「Alf Clausen Award」を受賞し、首席で卒業。
帰国後は作編曲家として数多くの映画やドラマ、報道番組などの音楽を担当する。
また、唯一無二の美しい音色と世界観を持つサックス奏者としてもファンを魅了している。
主な作曲作品として、映画『異動辞令は音楽隊!』『雨に叫べば』『繕い裁つ人』『たった一度の歌』『スカブロ』『星に語りて』『咲む』、NHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』『夕凪の街 桜の国2018』『ふたりのキャンバス』『はぶらし/女友だち』『高橋留美子劇場』『チャンス』『お米のなみだ』、CXドラマ『炎の経営者』、TBSドラマ『BUNGO -日本文学シネマ-』、MBSドラマ『アザミ嬢のララバイ』、NHKスペシャル『世界遺産 富士山〜水めぐる神秘〜』、NHK-BS『国際報道2014-2020』『ワールドニュース』『BS世界のドキュメンタリー』『ニュースほっと関西』他多数。
編曲家としては、映画『キャプテンハーロック』、スクウェア・エニックス『ロマンシング サガ リ・ユニバース』『ライトニングリターンズ ファイナルファンタジーXIII』『BRA☆BRA FINAL FANTASY』シリーズ、ディズニー『UniBEARsity』PV、『ワンピースウォータースペクタクル3 ワノ国編』、田中靖人『モリコーネ・パラダイス』などの作品がある。
一般社団法人日本作編曲家協会(JCAA)理事。洗足学園音楽大学の音楽・音響デザインコースにて後進の指導にもあたっている。
異動辞令は音楽隊!
2022年8月26日(金)全国ロードショー
©2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞ほか数々の賞に輝いた『ミッドナイトスワン』を手掛け、映画界でいま最も注目される内田英治監督最新作『異動辞令は音楽隊!』が8月26日(金)に全国公開となります。内田監督がYouTubeで偶然目にした警察音楽隊のフラッシュモブ演奏の映像から着想を得たオリジナル脚本で描かれる本作は、コンプライアンスを問われるこの時代に、犯人検挙には手段を選ばない警部補・成瀬司の行き過ぎた捜査の結果、最前線の刑事から広報課内の<音楽隊>への異動辞令という青天の霹靂から始まります。主演は日本映画界・ドラマ界を牽引し、どんな役をもモノにする圧倒的演技力とお茶の間の抜群の好感度、そして唯一無二の存在感をもって常にトップに立ち続ける阿部寛。音楽隊の同僚となるトランペット奏者・来島春子役に清野菜名、捜査一課の部下である若手刑事・坂本祥太役に磯村勇斗、サックス奏者・北村裕司役には高杉真宙らが出演。わき目もふらずに一心不乱に働いてきたミドル・エイジの奮闘と生き様を、その警察音楽隊のメンバーにイメージを重ね合わせ生まれたヒューマンドラマです。日本中に活力と希望、そして人生を彩る音楽をお届けする爽快な一本にご注目ください!
【STORY】犯罪捜査一筋30年の鬼刑事 成瀬司は部下に厳しく、昭和さながら犯人逮捕の為なら法律すれすれの捜査も辞さない男。家族もろくに構わず一人娘・法子からはとうに愛想をつかされている。そんな成瀬は高齢者を狙った「アポ電強盗事件」が相次ぐ中、勘だけで疑わしい者に令状も取らず過激な突撃捜査をしていたが、そのコンプライアンスを無視した行動が仇となり、突然上司から異動を命ぜられる。刑事部内での異動だろうと高をくくっていた成瀬だったが、異動先はまさかの <警察音楽隊>だったーー。
原案・脚本・監督:内田英治 (『ミッドナイトスワン』)
出演:阿部 寛 清野菜名 磯村勇斗高杉真宙 板橋駿谷 モトーラ世理奈 見上 愛岡部たかし 渋川清彦 酒向 芳 六平直政 光石 研/倍賞美津子
配給:ギャガ ©2022 『異動辞令は音楽隊!』製作委員会