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小諸藩の城下町にて
長野県小諸高校吹奏楽部を取材するために、東京から新幹線で軽井沢駅まで行き、そこからしなの鉄道に乗り換えて小諸(こもろ)駅を目指しました。
しなの鉄道は自動改札が導入されておらず、軽井沢駅でも切符を購入して、駅員さんがそれにスタンプを押す形式になっています。
また、電車も乗客がボタンを押してドアを開閉します。夏は冷房の冷気を逃さないのでありがたいですが、おそらく長野では冬に冷たい外気を入れない意味のほうが大きいのではないかと感じました。
信州の山々の間を抜けながら電車は走り、24分で小諸駅に着きます。
駅員さんに切符を手渡しして改札を出ると、そこには地元で採れたブロッコリーやトマト、切り花などが売られていました。
なんともほっこりする風景です。
小諸駅は長野県小諸市の中心エリアです。
かつての小諸城は、いまは懐古園という名前になって一般公開されています。
また、小諸駅の近くには大手門や石垣が残され、当時の姿をいまに伝えています。
駅から小諸高校まではずっと登り坂が続きます。
顧問の高砂佑介先生によれば、高低差は100メートルほどあるとか。毎日の通学は大変だろうなぁ。帰りは下り坂とはいえ、足腰はだいぶ鍛えられそうです。冬場は雪も積もるので、さらに通学には苦労しそうです。
また、季節によって雲海が発生するらしく、生徒のみなさんは駅から雲海を越えて登校するのだとか。こうなるともはや「天空の学校」です。
グラウンドからは長野県と群馬県の境にそびえ立つ浅間山など多くの山々を望むことができました。
きゅうりを囓る音、その時間と風景の価値
さて、小諸高校取材の後は小諸駅前のホテルに泊まったのですが、ホテルに朝食がなく、駅近辺にはコンビニがない。
仕方なく、翌朝はホテルをチェックアウトしてから駅前を歩き回り、小さな小さな昭和ティックな喫茶店に入りました。
店内ではお店のおばあさんが席で何か手作業をしていました。
ほかに客はおらず、迷惑かなと思いましたが、「どうぞ」と迎え入れてもらいました。
トーストとコーヒーを注文すると、2枚分以上ありそうなトーストがどん! 実に食べごたえがありました。
コーヒーも作り置きではなく、豆を挽いて淹れてくれたので美味しかったです。
驚いたのは、「これ、よかったらどうぞ」と小鉢に入ったきゅうりの漬物を出してもらったこと。
トーストやコーヒーに漬物が合うわけではないのだけれど、小諸の朝とその喫茶店の風情にはぴったりマッチしていました。
店内には子どもか孫が作ったらしい飾りや千羽鶴がぶら下がり、年代を感じさせる置物には懐かしさを覚えます。決して「カフェ」ではなく、「喫茶店」なのです。
おそらく地元の方たちに愛され、ときには常連さんのおしゃべりや笑い声が聞こえる店なのでしょう。
おばあさんの素朴な心遣いを嬉しく思いながら漬物を食べると、きゅうりを囓るカリッカリッという音が、窓から差し込む小諸の朝日の中に響きます。
BGMも流れていません。
おばあさんはどこかへ引っ込み、たったひとりの店の中に、壁掛け時計の振り子の音と僕がきゅうりを囓る音だけが聞こえていました。
通勤通学の時間も過ぎた朝の小諸駅前はとても静かなのです。
暑い夏の日の始まり、空には入道雲が黙々と立ち昇っていました。
有名な観光地を訪れたわけでもなく、写真映えするものでもないけれど(なので、写真は撮っていません)、そんなささやかなことが忘れがたい思い出になるものです。