小学校から大人までが楽器に親しむ町

朝日新聞と朝日新聞デジタルにて、オザワ部長が連載している「My 吹部 Seasons」北海道遠軽(えんがる)高校吹奏楽局の記事が公開されました。

小学校のころからずっと一緒に演奏してきた4人の局員が、全日本吹奏楽コンクールという目標に向けて最後の夏に青春を燃やすストーリーです。

取材の際、顧問の高橋利明先生に遠軽町を案内していただいたので、小学校・中学校・高校・一般と、高いレベルで金管バンドや吹奏楽に取り組んでいるこの町をご紹介したいと思います。

なお、遠軽高校(町内で唯一の高校)は全日本吹奏楽コンクールに9回出場。全日本マーチングコンテスト全日本アンサンブルコンテストにも出場している北海道を代表するバンドのひとつです。

北海道では「吹奏楽部」ではなく、「吹奏楽局」という名称のところが多く、遠軽高校もそうなっています。また、公立高校は「北海道立〇〇高校」ではなく、「北海道〇〇高校」という名称になります。

遠軽高校吹奏楽局の皆さんと

遠軽町では遠軽高校のほか、町立遠軽小学校や遠軽中学校、遠軽南中学校なども東日本学校吹奏楽大会・日本管楽合奏コンテスト・全日本マーチングコンテストなどで活躍しています。

一般団体としては、遠軽青少年吹奏楽団があります。

小学生から大人までが音楽に親しみ、楽しんでいるまちです。

遠軽高校の校舎

スイッチバックで有名な遠軽駅

それでは、遠軽町のご紹介をしましょう。

遠軽町は北海道北東部にあります。町自体は内陸であるものの、オホーツク海やサロマ湖も比較的近いエリアにあります。

農作物はもちろん、海産物も非常に美味しくいただける町です。

人口は1万8千人ほど。

訪れたのは7月下旬で昼間はかなり暑かったですが、朝晩は涼しく、体感では東京の10月下旬くらいの気温に感じられました。また、湿度は東京よりは低かったと思います。

暑さは長く続くものではなく、8月中旬以降は秋のような気候になるとのことでした。

もうひとつ驚いたのが、日没が遅いこと。

北海道は緯度が高いため、夏には日の出が早く、日没が遅くなるとのこと(北極が白夜になるのと同じ原理)。午後7時でもまだ夕暮れという感じでした。

さて、遠軽には旭川から特急で2時間かけて行きました。

遠軽駅は石北本線のスイッチバックの駅として鉄道ファンの間では有名なスポット。

特急はこの駅で進行方向を変えて(先頭車両が最後尾になる)進むため、車内ではお客さんが自ら座席を回転させる儀式があります。見知らぬ乗客同士が声をかけ合いながら協力して座席を回していく様子には、思わずほっこりしてしまいました。

また、遠軽駅の駅舎には自動改札がなく、次の列車を示す札がぶら下げられているなど、昭和を思い出させる懐かしさがありました。

特急大雪と遠軽駅。思わず「国鉄」という言葉が頭に浮かんできます
松本清張作品に出てきそうな駅舎がまたたまりません

瞰望岩は遠軽のシンボル

特急の車窓からも見えた瞰望岩(がんぼういわ)は、遠軽駅のすぐそばにそびえ立っています。

高さ約78メートルの巨岩で、遠軽町のシンボルです。

アイヌ語では「インカルシ(見晴らしの良いところ)」で、遠軽の地名のもとになったと言われています。

瞰望岩。下は公園になっています。

せっかくなので、高橋先生にお願いして瞰望岩の上まで連れていっていただきました。

途中までは車で登り、少しだけ階段を上がります。

頂上には東屋があり、遠軽町内を一望できます。

見事な景色なのですが、柵がありません……。しかも、草木が生えていて崖のきわがどこなのかわかりづらく、また、地面が軟らかくて崩れやすいとのこと。

転落事故もあったそうなので、おっかなびっくり写真を撮りました。

瞰望岩の上でiPhoneで撮影したパノラマ写真
せっかくなので、高橋先生と記念写真

続いては、いま非常に人気になっているという「道の駅 遠軽 森のオホーツク」です。

こちらはなんとスキー場に直結。

夏なので雪はありませんでしたが、見るからに急斜面……。いちばん上から滑るのは上級者なのだそうです。

スキーシーズンに来たら美しいゲレンデになっているだろうなぁ

この時期はワイヤーにぶら下がって滑り降りるジップラインなどが体験できるようです。遠軽町の公式YouTubeチャンネルに動画がありましたが、結構なスピードです。

この道の駅にはお土産コーナーもあったので、遠軽のはちみつを買いました。

「花の蜂蜜」ということですが、かすかにフローラルな香りがして、サラッとした爽やかな味わいのはちみつでした。

食パンにつけて食べましたが、美味しかったですよ。

いよいよ新たなホールがオープン!

続いて案内していただいたのは、今年8月26日にオープンする「遠軽町芸術文化交流プラザ メトロプラザ」です。

非常にモダンな外観を持つこのメトロプラザ。

モノトーンの立体が組み合わさったようなデザインは個人的にとても好きです。

遠軽駅に直結というアクセスの良さで、広い駐車場もあり、実用性も高そうです。

今回、高橋先生のご案内で特別にオープン前の館内を見せていただきました。

林業が盛んな遠軽の木材を壁面などに使った大ホールの美しさには目を奪われましたが、ほかにも様々な使い方ができそうな小ホールや各種の部屋が用意されており、通路は打楽器が余裕を持って通れる広さになっているなど、工夫も凝らされていました。

大ホール。遠軽産の木材をふんだんに使用しているそうです

また、住民や学生が休憩したり自習したりできそうなスペースやカフェもありました。

まさに芸術によって人々が交流する場所、遠軽町の文化の中心となりそうな施設でした。

ただ施設を作ったのではなく、きちんと住民が利用し、活用し、町の活性化やイメージアップにつながることまで考えられているところが素晴らしいです。

さすが音楽のまち!

ガンダムとアスパラガス!

今回初めて知ったのですが、なんとオザワ部長も大好きなアニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターである安彦良和さんは遠軽高校のご卒業生なのだとか!

映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』も大ヒットしている安彦さんは、オザワ部長にとって敬愛するレジェンドのひとり。

ガンダム以外でも、小説版『クラッシャー・ジョウ』のイラスト、映画『クラッシャー・ジョウ』『アリオン』『巨神ゴーグ』も好きでした。

遠軽では、「ガンダム」の「ガン」は「瞰望岩」の「瞰」ではないかと言われているそうです(もちろん、噂話のレベルです)。「ガンダム」はもともと企画初期には「ガンボーイ」というタイトルだったのですが、まさか「瞰望岩→ガンボーイ」では……?

実際には「コンボイ」+「マンダム」が由来だと言われていますが、ついそんな妄想をしてしまいました。

なお、メトロプラザにはオープン時に大きな安彦良和さん作の絵が飾られることになるそうです。

その後、高橋先生に「手打ちそば 秦」というお店へ連れていっていただいたのですが、そこには安彦良和さんの色紙が!

嬉々としてお蕎麦を食べているシャア大佐のイラストでした(笑)。

「秦」のおそばはコシがあってとても美味しかったのですが、特筆すべきは一緒にいただいたアスパラガスの天ぷら

遠軽のアスパラガスなのだそうですが、東京で食べるものとはまったく違い、太くて、甘みがあって、ジューシーで……。ひと口噛むと、サクッとした衣の感触とともにアスパラガスの旨味が広がります。

幸せな脳内物質がおびただしくあふれ、「遠軽に来てよかった……」としみじみ思いました。

ぜひ皆さんにも遠軽のアスパラガスを味わっていただきたいです。

他校とは違う特徴が多い吹奏楽局

町内をあちこちご案内いただきましたが、取材では遠軽高校吹奏楽局の合奏練習もたっぷり拝見しました。

局長の「ヨネ」さんには、小学校時代からいままでのストーリーを詳しく聞かせていただきました。

小学校から高校までずっと一緒に演奏を続けてきた仲間がいるなんて、本当に素敵ですよね。

遠軽高校には一般的な高校の吹奏楽部とは違ったところがあります。

まず、5月にみんなで林業の手伝いのアルバイトをすること。予算の限られた公立高校で、様々な活動を行うための費用を自分たちで稼ぐためです。もちろん、地域への貢献、交流の意味合いもあります。

それと、休日の練習参加時は、服装は自由です。

一般的な学校では、休日でも登校するときは制服や学校指定のジャージだと思いますが、遠軽高校では個人の自由。上の写真でも、それぞれ自分が演奏しやすい服装をしているのがわかると思います。

それと、下宿生の多さです。

吹奏楽局の局員62人のうち、実に25人が遠方からやってきた下宿生。

現在は北海道内から来た人ばかりですが、実は全国から学生を受け入れているそうです。

町も全面的にバックアップしており、下宿生には助成金も出ます(吹奏楽局に限りません)。

今回、特別に下宿のひとつを見せていただきましたが、下宿というよりは「きれいな寮」というイメージで、新しい建物に個室が用意され、学校にも近くて暮らしやすそうでした。

下宿のひとつ

遠軽高校の今年のコンクール曲は、課題曲が《ジェネシス》、自由曲はフランコ・チェザリーニの《交響曲第1番「アークエンジェルズ」》です。

合奏練習で聴かせていただきましたが、厚みのあるサウンドとハーモニーの美しさはさすがだなという印象を持ちました。

特に《ジェネシス》は終盤の演奏が立体的に聞こえ、感動を覚えました。

それと、練習の際に合奏が止まると、局員の皆さんが耳にかけていたマスクをすぐにつけて返事をしていたことにも感心しました。高橋先生によれば、感染予防のためだけでなく、もし誰かが感染したときにできるだけ濃厚接触者にならないように、という配慮もあるそうです。

今年のコンクールは、コロナ禍になって3年目ですが、もしかしたらいちばん厳しいコンクールかもしれません。出場を辞退する学校、欠員がある中で演奏する学校がたくさんあります。

遠軽高校もコロナに翻弄されながらも、自分たちの目標へたどり着くため、できることを精いっぱいやってきたのでしょう。

マスクのつけ外しは徹底していました

今年度のスローガンは「殻を破れ」

そこに込められた思いは記事に書きましたので、ぜひお読みいただければと思います。

なお、次回の「My 吹部 Seasons」は北海道旭川市の旭川明成高校吹奏楽部です。

両校ともに、8月25日に行われる全道大会に出場します。

吹奏楽の「熱い」夏、みんな頑張れ!




★北海道の吹奏楽部が登場する本★