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甘いだけじゃない4つの恋のストーリー
岩崎書店から出版された恋愛アンソロジー『Sweet&Bitter 1 恋に正解ってある?』に初めて恋愛小説を書きました。
タイトルは「チョコレート・ダモーレ」です。
初めての恋愛小説、と言っても、これまでも『空とラッパと小倉トースト』や『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド 〜沖縄の高校がマーチング世界一になった話〜』で恋愛シーン、エピソードは書いてきています。
ただ、あくまで部活=青春がメインでその中に恋愛の要素が入っていました。
今回の「チョコレート・ダモーレ」は恋愛がメインテーマで、その舞台設定として吹奏楽部があります。
アンソロジーなので、「チョコレート・ダモーレ」を含めてショートストーリーが4本収録されていますが、光栄なことにカバーイラストは僕の作品に基づいたものになっています(イラストレーター・中島梨絵さん)。
書籍のサブタイトルに「甘いだけじゃない4つの恋のストーリー」とあるとおり、恋愛の甘さはありながらも、ひと筋縄ではいかない物語が集められています。
また、作品にキーとなるスウィーツが登場することも本書の特徴になっています。
僕の作品は、言うまでもなくチョコレートです。実は、ただのチョコレートではないのですが……。
恋愛とチョコが大嫌いな男子は謎めいた転校生に惹かれ……
「チョコレート・ダモーレ」はこんなストーリーです。
かつては吹奏楽コンクールで全国大会に出場していた名門ながら、長らく低迷している神奈川県立港高校吹奏楽部。悲願の全国大会への復帰を目指し、部内恋愛禁止など厳しい部則の中で活動を続けている。
部長を務めるアルトサックス担当の杳介は特に部則にうるさく、過去の経験から恋愛を毛嫌いしている。また、自宅で母がパティスリーを営んでいるにもかかわらず、大のチョコレート嫌いでもあった。
そんな杳介が偶然見つけたアルトサックスとコルネットの二重奏曲《チョコレート・ダモーレ》の楽譜を何気なく吹いていると、そこに見慣れない制服を着た少女が現れる。
その少女——岬は転校生だった。前の学校ではトランペットを吹いていたという岬と杳介は、その場で《チョコレート・ダモーレ》を一緒に吹く。
恋愛嫌いの杳介の心はその瞬間から岬に強く引きつけられてしまう。
部内恋愛禁止の吹奏楽部の部長なのに。恋にうつつを抜かすより、全国大会出場を目指さなければならないのに……。
岬はすぐに部員たちともなじみ、また、トランペットの演奏技術も抜群だった。ただ、誰とも適度に距離を置いており、練習中にすっとどこかへ消えては戻ってきたり、部活が終わるとあっという間に一人で帰ってしまったりする。
そんな謎めいた岬への思いを止められなくなった杳介は、ついに思い切った行動に出る。そこから岬の秘密が明らかになって——。
実在する曲《チョコレート・ダモーレ》
本書で重要な役割を果たしているのが、タイトルにも使っている《チョコレート・ダモーレ》という楽曲。
実は、この曲は実在しています。
作曲者は、《吹奏楽のための交響詩 ぐるりよざ》や《ピース、ピースと鳥たちは歌う》などで有名な伊藤康英先生。
執筆にあたって康英先生には許可をいただいただけでなく、記号の意味、実は曲に歌詞があることなどもご教示いただきました。康英先生、ありがとうございました。
作品内では、アルトサックスとコルネットにピアノ伴奏がついたバージョンを使っていますが、ほかにもさまざまなバリエーションがあります。
親しみやすくて耳に残る、やさしくて少し切ないメロディのこの曲、楽器をやっている方はぜひ演奏してみてください。
なお、YouTubeには作曲者の康英先生によるピアノソロの動画もあります。聴いていると、思わず目頭が熱くなってしまうような素敵な演奏です。
この曲を思い浮かべながら小説を読んでいただくと、さらに深く物語を感じていただけると思います。
額賀澪さん、高杉六花さんの作品も収録
読書が苦手な方でも読みやすいショートストーリーなので、恋をしている人も、恋をしたい人も、フィクションの中でドキドキしたい人も、ぜひご一読ください。
なお、『Sweet&Bitter 1 恋に正解ってある?』には、吹奏楽を題材としたヒット作を持つ額賀澪さん(『屋上のウインドノーツ』『風に恋う』)や高杉六花さん(『君のとなりで。』)、人気作家の佐藤いつ子さんの作品も収録されています。
特に、額賀さんや高杉さんとは個人的にも親しく、こうして一冊の書籍の中に作品が並んでいることがとても嬉しいです。
本書を通じて、みなさんに恋愛小説という「恋する心の旅」を楽しんでいただけたら幸いです。もちろん、旅のおともは少しだけビターなチョコレートで……。