「最強」で「芸術」的な響き

佐藤友紀さん(東京交響楽団首席トランペット奏者)、福川伸陽さん(NHK交響楽団首席ホルン奏者)、青木昂さん(読売日本交響楽団首席トロンボーン奏者)、次田心平さん(読売日本交響楽団チューバ奏者)というスーパースター4人がコアメンバーとなり、さらに名プレイヤーたちも参加して「ARK BRASS(アーク・ブラス)」という金管アンサンブルユニットが結成されたーーという情報をキャッチ。

レコーディングが行われているという岐阜県のサラマンカホールをさっそく訪れました。

プレイヤーの皆さんだけでなく、スタッフの皆さんも含めて全員が毎日受けているという唾液による抗原検査をクリアし(ドキドキしましたが、無事陰性でした)、いよいよ中へ。

錚々たるアーティストたちが訪れたサラマンカホールの舞台裏の壁
抗原検査キット。「C」に線が入っていると陰性なんだとか。

シューボックス(靴箱=直方体)型の美しいホールのステージ上にいたのは、まさしくARK BRASSのスターたち!

透き通るような金管楽器の音色が響き渡っていました。最初に聞こえてきたのはティールマン・スザート作曲《スザート組曲》でした。

サラマンカホールのステージ上でレコーディングが行われていました。
なかなか見られないプロのレコーディング風景。

この日はコアメンバーの4人に加えて以下のようなプレイヤー陣が参加し、曲によって入れ替わりながら演奏していました。

長谷川智之(NHK交響楽団首席トランペット奏者)
伊藤駿(東京都交響楽団トランペット奏者)
尹千浩(読売日本交響楽団トランペット奏者)
高瀬新太郎(東京都交響楽団首席トロンボーン奏者)
葛西修平(読売日本交響楽団トロンボーン奏者)
笠野望(日本センチュリー交響楽団バストロンボーン奏者)
秋田孝訓(東京佼成ウインドオーケストラ打楽器奏者)

佐藤友紀さんは「最強の金管アンサンブルを目指します」、福川伸陽さんは「ARK BRASSは芸術です!」と語っていましたが、その言葉のとおり「最強」で「芸術」的な演奏がホールに響いていました。

佐藤友紀さん(手前)
福川伸陽さん(中央)

ホルンとチューバがパイプオルガン前で演奏!?

もちろん、コンサートではないのでホールの客席は無人。ステージ上にはたくさんのマイクやスタンド、ケーブル類が配置されています。

レコーディングということでピリピリしたムードなのかと思いきや、非常になごやかな雰囲気。笑い声や冗談もときどき聞こえてきました。

リハーサルや録音チェックの際には、スタッフの方たちも含めて「ここはこうしよう」といった意見交換をするシーンも見られましたが、お互いに実力を認め合ったプロ同士の非常にクリエイティブな対話であるように感じられました。

それがもっとも顕著に出ていたのは、皆さんもご存知のイングランド民謡《グリーンスリーブス》の録音でした。

ホルンの福川さんとチューバの次田さんがなんとステージの後ろにあるパイプオルガンの位置に上がって楽器を吹き始めたのです。もちろん、音楽的な効果を求めてのことですが、次田さんが座る位置をいろいろ変えて音を確かめてみたり、また、佐藤さん以外の3人のトランペット奏者が曲の途中で席を離れ、反響板の前に移動して吹くようにしたり……。

さらには、テンポを合わせるために、急遽打楽器の秋田孝訓さんを指揮者に抜擢! 

指揮者は初体験だという秋田さんは「今回(のレコーディングで)いちばん重いです」と苦笑い。これだけのスタープレイヤーを前にしていきなり指揮を振ることになったのは大きなプレッシャーだったと思いますが、見事に大役をこなしていました。

佐藤さんから指揮の指導?を受ける秋田さん(本職は東京佼成ウインドオーケストラの打楽器奏者です)

そうして出来上がった《グリーンスリーブス》は、深く美しい「金管楽器の森」の中をさまよっているような、不思議な響きが重なり合う演奏になっていました。

聴いたのはあくまでホールでの響きなので、早くCDで聴いてみたいです。

また、「ラグタイム王」と呼ばれたスコット・ジョプリンの名曲《イージー・ウィナーズ》は、軽快でどこかユーモラスな曲をキラキラ輝く上質なサウンドで奏でられました。その楽しさと言ったら!

音楽の楽しさというものは、高い演奏技術という根や茎の上に咲く花なのだ、ということがよくわかる演奏でした。

《イージー・ウィナーズ》のレコーディング風景

ARK BRASSの皆さんは、このサラマンカホールで数日間レコーディングを行なっていたとのこと。オザワ部長は6時間ほどホールに滞在しましたが、休憩を挟みながらもずっと美しい音と集中力を維持して演奏するプレイヤーの皆さんは超人的だと感じました(なお、オザワ部長が到着したときはすでにレコーディングが始まっており、帰るときもまだ続いていました)。

さすが一流のプロはすごい!

改めて、ARK BRASSとは?(アルバム、ツアー情報も)

さて、このARK BRASSですが、クラシックの殿堂として知られている東京・港区のサントリーホールとそのすぐ前にあるアーク・カラヤン広場で繰り広げられる都市型音楽祭 ARK Hills Music Week「サントリーホールARKクラシックス」のレジデンス・ブラス・アンサンブルとしてデビューすることが決まっています(ユニット名もここから来ています)。

また、ARK BRASSは、イギリスのトランペット奏者であるフィリップ・ジョーンズを中心に結成され、1970〜1980年代に一世を風靡した伝説的な金管アンサンブル「フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(PJBE)」へのオマージュとして結成された、という経緯もあります。

フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのアルバム『FOCUS ON P.J.B.E.』

超一流のプレイヤーが結集して、ハイクオリティな演奏とユーモアあふれるパフォーマンスを繰り広げ、金管アンサンブルの歴史に燦然と輝くフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルは5度の来日コンサートで日本国内にもセンセーションを巻き起こしました。

そんなレジェンドに敬意を表し、今回のレコーディングではフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルと同じ楽譜を使用し、イギリスのデッカレコードで使われていたマイクのセッティング方式「デッカツリー」を採用するなど、徹底したリスペクトとこだわりが感じられます。

デッカツリー。使用機材は非常に高価なものだそうです!

今回のレコーディングの成果として、2021年9月にはARK BRASSのデビューCD『イージー・ウィナーズ〜PJBEへのオマージュ』がエイベックス・クラシックス・インターナショナルよりリリース予定です。

[収録予定曲]
プロセッショナル・ファンファーレI
クラーケン
ブラック・サム
ミスタージャムス
バーリッジ
ジ・エンターテイナー
グラジオラス・ラグ
ラグタイム・ダンス
イージー・ウィナーズ
フレール・ジャック
ミュージック・ホール組曲
グリーンスリーブス
ロンドンデリーの歌
PJBEへのオマージュ

また、同10月には「ARK BRASS結成記念日本ツアー2021 フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルへのオマージュ」が下記の日程・場所で開催されます。

10月5日(火) 群馬 高崎芸術劇場 音楽ホール
10月6日(水) 東京 三鷹市文化センター 風のホール
10月7日(木) 名古屋 三井住友海上しらかわホール
10月9日(土) 大阪 住友生命いずみホール
10月10日(日)東京 サントリーホール ARK クラシックス
10月11日(月)東京 サントリーホール ARK クラシックス

フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの活躍を知る往年のブラスアンサンブルファンはもちろんのこと、フィリップ・ジョーンズを知らない若い世代の皆さん、クラシックファンの方たち、そして吹奏楽部員・団員の方たちもオススメです。

そして、クラシックや吹奏楽をまったく知らない人であっても、シンプルに(それと同時に深く)楽しむことができるのがARK BRASSです。

CDのリリース、あるいはコンサートの開催を楽しみに待ちましょう!