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若き俳優陣の成長にも重なる物語
オザワ部長・著『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』(ポプラ社)を原作とした舞台『ファンファーレ!! 〜響き続けた吹奏楽部の物語〜』(井上桂・脚本/深作健太・演出)が、7月17日に無事千穐楽を迎えました。
プレビュー公演が13日、初演が14日でしたが、僕は15日から水戸入り。15日昼公演、16日、17日と上演後のアフタートークで登壇しました。
また、15日の昼・夜公演、16日、17日と合計4公演を客席で見せていただきました。
1週間ほど前に、会場である水戸市民会館・中ホール(ユードムホール)での稽古を見せてもらっていたのですが、本番はセットや照明が入り、衣装も本番仕様となり、さらに茨城の吹奏楽部(聖徳大学附属取手聖徳女子高校吹奏楽部、水戸女子高校吹奏楽部)も加わって、稽古とはまったく違ったものを見るような気持ちになりました。
また、役者さんたちは1公演ごとに成長し、リアルな吹奏楽部員たちの姿を見ているようでした。
それぞれの役柄だけでなく、役者としての個性もしっかりと立つようになって、頼もしさすら感じました。
「らしさ」前回で座長を務めた荻沼栄音さん、もっとも難しい役柄ながら心情が醸し出されるような演技で見せてくれた黒河内りくさん、全体のバランスをとりながらの表情豊かな演技が印象的だった田代明さん、思い切りの良いセリフと感動的なサックスソロが見事だった桜井木穂さん、重々しい物語の中で観客をホッとさせる個性的な演技が光った鈴木咲人心さん。
オーディションから見守ってきたものとして、一人ひとりが強く記憶に残りましたし、チームワークが美しかったです(休憩時間に舞台裏で輪になって《GR》を楽しそうに歌っていた姿が忘れられません)。
すでに成人している彼女たちですが、この舞台はきっと「青春」だったのではないかと思います。
監督役の富岡晃一郎さん、先生役の辻本みず希さんが若き5人をしっかりと支え、脇から全体のクオリティを高めていたのもさすがで、プロの役者のお仕事というものを見せていただいた思いです。
ご来場いただいた観客のみなさんも温かく、それぞれにコロナ禍の記憶を重ねながら舞台をご覧いただいたのではないかと思います。キャストや吹奏楽部の演奏には大きな拍手を送っていただきました。
井上桂さんの脚本、深作健太さんの演出も素晴らしく、細かい部分までこだわりぬく姿勢には多くを学ばせていただきました。
原作者としては何も言うことはない、大満足の出来でした。
それぞれの道へ歩き出すとき
千穐楽が終わって水戸市民会館を離れるときには、最後の定期演奏会を終えた吹奏楽部員のような、あるいは卒業式の後のような寂しさを覚えました。
思い返すと、最初に舞台化の話をいただいたのが昨年6月。1年以上前のことでした。10月に舞台化の情報が公開となり、11月にまだ完成していない水戸市民会館を下見し、12月に最初のオーディション。キャストが決まった後は、台本の読み合わせ、ボイストレーニングなどにも立ち会わせていただきました。
井上桂さんからは舞台のこと、脚本のこと、役者のこと……。本当に様々なことを教えていただき、その奥深さを知ることができました。
6月には舞台の顔合わせに参加するはずが、僕自身がコロナに感染してしまい、行くことができませんでした。そのときに、コロナ禍が持つ社会的な影響、個人が体験する心理的な負担や不安を身をもって知りました。
そして、先々週の稽古の陣中見舞いを経ての、公演。
満足感や納得感が多い一方で、「終わってしまったなぁ……」という虚脱感も大いにあります。
けれど、僕自身も、スタッフやキャストのみなさんも、いつまでもその感慨に耽っているわけにはいきません。
吹奏楽コンクールで部員たちが喜んだり悔し泣きをしたりしても、また次の日から立ち上がり、歩き出すのと同じように、大人たちもまた、歩き出すのです。
井上桂さんや深作健太さん、スタッフのみなさんが手掛ける次の作品にぜひ注目してください。
キャストのみなさんの次の挑戦、ぜひ応援してあげてください。
そして、オザワ部長もすでに次の作品に取り掛かっています。次は、沖縄を舞台にした世界一のマーチングバンドの物語です。
マーチング経験者だけでなく、吹奏楽経験者、まったく経験のない人でも楽しめるような、そして、生命感と重さと深さ、沖縄の空と海と太陽を感じられるような作品にしたいと思っています。
ひとりでも多くの方に読んでいただけたら嬉しいです。
実を言えば、いまもまだ頭の中には舞台で演奏された《「GR」よりシンフォニック・セレクション》が流れ続けています。
自分の原作だからということではなく、『ファンファーレ!! 〜響き続けた吹奏楽部の物語〜』という素晴らしい作品に巡り会えたこと、関われたこと、間近で見せていただいたことは自分にとって大きな大きな経験、財産になりました。
寂しいような、悲しいような、嬉しいような、そんな心のゆらぎを次への糧に変え、また多くの方に感動していただけるものを生み出していきたいと思います。