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W全国大会出場の夢は消えても…
杜の都、宮城県仙台市にある仙台市立東仙台中学校。
顧問の高橋保先生が率いる吹奏楽部は、2017年から3年連続で東北大会に出場。2018年にはゴールド金賞に輝くなど、夢の全日本吹奏楽コンクール出場まであと一歩というところまで来ているバンドです。
また、2019年には全日本マーチングコンテストにも初出場を果たし、銀賞を受賞しています。
好成績を上げていながら、外部講師の力はまったく借りていない「手作りのコンクール、手作りのマーチング」だというのですから驚きです。
高橋先生の指導のポイントは「自分たちで創り上げること」だそうです。
コンクールもマーチングも「金賞を獲ること」より、「自分たちで試行錯誤しながら演奏演技に磨きをかけていく」経験のほうが、「将来明るく元気に生きていく力になる」と私も子供たちも考えています。
高橋保先生
優れた指導者による指導によって技術や音楽性を高めていくことも非常に大事なことですが、一方で、部員たちの中から出てくる「自発的な活動、自発的な音楽」というものも大きな意味と価値を持つことです。後者は、中学生ではなかなか難しいものですが、実際に東仙台中学校では結果も出ている点が素晴らしいです。
さて、2020年は全日本吹奏楽コンクールと全日本マーチングコンテストの「ダブル全国大会出場」という大きな夢を抱いていた東仙台中ですが、まさかの新型コロナウイルスの感染拡大により、コンクールとマーチングコンテストがいずれも中止に。
3年生は9月26日のコンサートをもって引退することとなりました。
休校と部活停止で先生と3年生は顔を合わせることもできませんでしたが、オンラインでミーティングを重ねました。大きな目標が失われ、みんなで涙を流しながらも、最後は前向きに決意を固めました。
「自分たちらしい引退コンサートをやろう!」
6月からようやく学校が再開されたものの、最初の1か月で練習ができたのは3日のみ。しかも、感染症対策で部員68人で合奏できる場所が体育館・武道館の2か所しかなく、実際に合奏できた回数は数えるほど。そのせいもあって、休校期間中に落ちてしまった演奏力、ブレンド力を取り戻すのが非常に大変だったそうです。
実際、引退コンサートに向けて本腰を入れて練習できるようになったのは、本番まで1か月を切った9月に入ってからでした。
数々の試練に直面してもあきらめずに東仙台中学校吹奏楽部は前進を続け、ついに9月26日、宮城野区文化センター・パトナホールのステージに立ちました。
演奏曲は、《マードックからの最後の手紙》(樽屋雅徳)、《ブリュッセル・レクエイム》(ベルト・アッペルモント)、《LOVE POP SOUL!》(福田洋介)など9曲。
もっとも思い入れが深かったのは、コンクールの自由曲にする予定だった《ブリュッセル・レクエイム》。演奏に際して、高橋先生の胸にはこんな思いがあふれていたそうです。
昨年度果たせなかった、名古屋と大阪の「ダブル全国大会出場」が今年度の私たちの夢でした。そのために選んだコンクール自由曲が難曲《ブリュッセル・レクイエム》でした。楽譜を手にし、「さあ練習開始!!」というタイミングでコロナがやってきました。
高橋保先生
それはあまりに残酷で、私たちは夢へのスタートラインにつくことさえ許されませんでした。何度気持ちが折れかかったか分かりません。しかし、様々な方々の支えがあって、誰一人欠けることなく引退コンサートにたどり着けたことを何よりうれしく思いました。
《ブリュッセル・レクエイム》も含め、引退コンサートで演奏した曲はどれも未熟で未完成ですが,すべての曲がいとおしく、一生の忘れられない曲になりました。今回の引退コンサートは、生徒たちが将来、明るく元気に生きてく上で大きな大きな力になったと思います。
こうして3年生のメンバーは部活を引退し、1・2年生にバトンタッチしました。
コロナの感染者数が大幅に増加してきているいま、1・2年生はどんな気持ちでいるでしょうか。焦りや不安もあるとは思いますが、誰も経験したことのないコロナ禍で部活を引っ張って引退コンサートを成功させた3年生の姿は、きっと彼らの心の支えになることでしょう。
どんな形であれ、今年こそ東仙台中学校吹奏楽部の皆さんが「ダブル全国大会出場」という夢にチャレンジできること、それが実りあるものになることを願っています。
「前日の奇跡」が起こった!
東仙台中学校吹奏楽部が2019年に全日本マーチングコンテストに初出場した際、前日に大阪城公園で「オレンジの悪魔」の異名を持つマーチングの名門・京都橘高校吹奏楽部と偶然遭遇。
あこがれの学校と交流でき、「私たちの分まで頑張ってください!」(京都橘高校は関西大会金賞ながら全国大会は出場ならず)と激励を受けた部員たちはテンションが最高潮に上ったそうです。
東仙台中学校では、これを「前日の奇跡」と呼んでいるそうです。
そして、今回、引退コンサートに際してオザワ部長から高橋先生へ「演奏を録音し、ラジオ『ブラボーブラス』でかけませんか?」とご連絡したところ、それがちょうど本番前日だったことから、「『前日の奇跡』の再来だ!」と先生と部員の皆さんは盛り上がったとのことです。
放送も無事終わりましたが、思いがいっぱいに詰まった演奏はきっと多くのリスナーの心を打ったことでしょう。
一生懸命ひたむきに頑張る人たちのことを、きっと誰かが見ていてくれます。
そして、いつになるかはわかりませんが、その頑張りは何らかの形で報われます。
オザワ部長はそう信じていますが、東仙台中学校の皆さんのエピソードをお聞きし、改めてその思いを強くしました。
引退した3年生も、今後をになう1・2年生も、ぜひひたむきさを忘れずに前進していってくださいね!
東仙台中学校と同様に頑張る小学校・中学校・高校・大学・一般バンドを、これからもオザワ部長は応援していきます。
※ブラボーブラスで演奏をかけたいというバンドの方はお問い合わせページよりメッセージをお送りください。