吹奏楽部がアルプススタンドで《The Fox》を演奏

2022年8月9日、阪神甲子園球場で行われた夏の甲子園、第104回全国高等学校野球選手権大会。

1回戦で、南北海道・札幌大谷高校は、東京・二松學舍大学附属高校と対戦しました。

札幌大谷は夏の甲子園初出場でしたが、その応援がひときわ注目を集めました。

北海道日本ハムファイターズのチアリーダー「ファイターズガール」が踊って大きな話題となっている「きつねダンス」を、札幌大谷のチアリーダーがアルプススタンドで披露したのです。

もちろん、ノルウェーのYlvis(イルヴィス)による楽曲《The Fox》を演奏したのは、札幌大谷高校吹奏楽部です。

残念ながら試合は3対2でサヨナラ負けを喫してしまった札幌大谷ですが、野球部のハツラツとしたプレイだけでなく、スタンドの「きつねダンス」も大きな話題に。

ニュースで取り上げられ、なんとTwitterでもトレンド入りしました。

Yahoo!ニュースに掲載されたスポーツ報知の記事(https://news.yahoo.co.jp/articles/37d663617762f76f24e99d1c9e9909dcf74d0e7d

アレンジはコンクール課題曲を5曲手掛けたあの方!

そんな札幌大谷の「きつねダンス」ですが、もちろん吹奏楽(高校野球の応援的に言うとブラスバンド)用の楽譜があります。

それを手掛けたのは、札幌大谷の内藤淳一先生

実は、内藤先生は吹奏楽界では重要人物です。

なんと吹奏楽コンクール課題曲をこれまで5曲も手掛けているのです。

1983年 吹奏楽のためのインヴェンション第1番
1997年 マーチ「夢と勇気、憧れ、希望」
1999年 マーチ・グリーン・フォレスト
2001年 式典のための行進曲「栄光をたたえて」
2008年 ブライアンの休日

演奏したことがある、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

オザワ部長にとっても《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》は人生で初めて演奏した課題曲で、吹奏楽曲の中でもっとも好きな曲。

そして、内藤淳一先生は尊敬する作曲家です。

加養浩幸先生が音楽監督を務める千葉県の土気シビックウインドオーケストラの演奏

「きつねダンス」誕生秘話

今回、札幌大谷の応援曲のほとんどは内藤先生がアレンジを担当。

その中に「きつねダンス」もありました。

そこで、内藤先生に札幌大谷の「きつねダンス」誕生秘話をお聞きしました。

「『きつねダンス』は、札幌大谷の学園理事が支部予選(北海道では支部予選を勝ち上がった学校が南・北北海道大会に出場できる)のときに『日ハムのあれ、いいよね』とボソッと言ったのがきっかけでした」

もともと内藤先生は南北海道大会に向けて、メジャーリーグの7回終了時に歌われる《私を野球に連れてって》を新作として用意しようとしていました。

そして、野球部が支部予選を突破し、南北海道大会に出場することが決まったとき、ふと思い出したのがあの「日ハムのあれ、いいよね」という言葉でした。

そして、吹奏楽コンクールの地区大会直前だったものの、大急ぎで《The Fox》をアレンジし、吹奏楽部員に配りました。

内藤淳一先生がアレンジした《The Fox》の楽譜の一部

その後、野球部は南北海道大会を勝ち上がり、見事夏の甲子園に初出場を決めました。

そして、1回戦での健闘とともに、吹奏楽部とチアリーダーの「きつねダンス」は甲子園で大きな話題となり、Twitterでトレンド入り。内藤先生も非常に驚いたそうです。

この試合で《私を野球に連れてって》もアルプススタンドで演奏され、メジャーリーグをよく知るファンには非常に好評だったとのことです。

現在、札幌大谷の応援曲は約50曲。

課題曲や《マーチ「笑顔サンシャイン!」》など数々の名曲を手掛けてきた内藤先生であっても、いきなり応援曲をさらっと編曲できるわけではありません。応援曲には応援曲の流儀があるからです。

応援曲のアレンジを始めるあたり、内藤先生にもご苦労があったそうです。

「2019年の春の選抜に札幌大谷が出場することになり、懇意にしている駒澤大学附属苫小牧高校吹奏楽部の顧問の先生に、野球応援や引率、球場でのルール、そして、応援曲のアレンジを教わりにいきました。札幌大谷に来るまでは本格的な野球応援とは無縁だったので、それからアレンジや演出を考えながらコツコツやってきました」

勉強や研究の成果が実り、今回の「きつねダンス」につながったわけです。

甲子園の主役は、あくまで高校球児たち。

ですが、こうして応援という舞台で吹奏楽部やチアリーダーが話題となり、また、その楽曲が輝くところも、また甲子園の素晴らしさです。

残念ながら札幌大谷は敗退してしまいましたが、秋以降の大会では吹奏楽部の応援と、内藤先生の新たなアレンジにも注目しましょう。

2018年の北海道旭川商業高校吹奏楽部の定期演奏会にて。左から筆者、佐藤淳先生、内藤淳一先生



★吹奏楽部と甲子園のエピソードが登場する本★