《アルヴァマー序曲》や《忠誠》を熱く指導

2021年5月某日のこと。

日本を代表するサックス奏者・須川展也さんが、全日本吹奏楽コンクール5回出場を誇る石川県立小松明峰高校吹奏楽部にレッスンに行かれる際、縁あってオザワ部長も同行させていただくことになりました。

須川さんは最初にサックスパートへのレッスンを実施。

その後、合奏場へ向かいました。

そこには部員の皆さんが合奏隊形で集まっていました。一人一人が顧問の木村有孝先生の手作りのビニールカーテンで仕切られ、感染症対策もしっかり行われていました。

管楽器奏者の間がビニールカーテンで仕切られているのがわかるでしょうか?

まず、小松明峰の皆さんが昭和の時代から愛されている名曲《アルヴァマー序曲》(ジェームズ・バーンズ)を演奏してくれました。表現しようという意志を感じる良い演奏でしたが、ここから須川さんの熱いレッスンがスタート。

序奏が終わった後の勇壮な部分は、「メロディは放っておいてもカッコよく響くから、そこは少し楽に吹いていい。実は、その裏側で木管楽器や打楽器がリズミックに速く動いているところが見せ場。音形に沿って華やかに。それが大事」とアドバイス。

また、メロディについてはこう教えました。

「メロディを柔らかくしようと思って演奏していると思いますけど、それでどういうことが起こっているか。発音から遅れて音が膨らんでくる。それを『後押し』と言います。そうではなくて、しっかり息を使って、柔らかいけどちゃんと音の立ち上がりのタイミングから音が聞こえるようにしてください」

その後、須川さんがアルトサックスで実演すると、アドバイスの内容が具体的に音でわかります。

部員の皆さんにとっては須川さんの美しい音や表現そのものが大きな刺激、あるいは大きな学びとなっていたことでしょう。

あの須川展也さんの生音を間近で聴けること自体が最高のレッスンです

2曲目はジョン・フィリップ・スーザ作曲の《忠誠》。小松明峰の皆さんの演奏を聴いて、須川さんが着目したのは「sfz(スフォルツァンド)」の表現。

「sfzっていうのは、体の重心を下に降ろすようにしながら全員で息を使って吹かないと、音が飛びません。ただ大きい音を出すだけではなく、息の圧を使って吹くのが大事です」

言葉だけではなく、ときにサックスで吹き、ときに指揮台に上がって指揮棒を振りながら行われる須川さんの熱心なレッスン。部員の皆さんはもちろん、木村先生も真剣な表情で聞いていたのが印象的でした。

2020年いっぱいでヤマハ吹奏楽団の指揮者を退任された須川さんですが、愛情あふれる指揮は健在でした

そして、最後に演奏したのは4月26日に急逝した和泉宏隆さん作曲の名曲《宝島》

カラフルなポンチョを身につけ、パフォーマンスを加えながら演奏する部員の皆さんに須川さんもサックスで参加。アルトサックス担当の二人とともにソロを奏で、大いに曲を盛り上げました。

部員さんたちにとっては本当に忘れられない経験となったことでしょう。

今年の自由曲は《メディアの復讐の踊り》!

さて、せっかくオザワ部長も学校に伺ったので、部員さんにインタビューをさせていただくことにしました。

お話を聞かせてくれたのは3年の副部長、西野心優(みゆう)さん。担当楽器はトロンボーンです。

音楽研究室にて。西野心優さんと顧問の木村有孝先生

屈託のない笑顔と大きな声が特徴的な心優さんは中学時代に小松明峰高校吹奏楽部の定期演奏会を見にいき、《宝島》を演奏するキラキラした姿とサウンドに魅せられて、すっかりファンになってしまったのだそうです。

実際に小松明峰の吹奏楽部に入ってみて、そのキラキラの理由がわかったと心優さんは言います。

「私たちはただ演奏しているだけでなく、1日の部活の予定をすべて部員自身で立てるなど、いろいろな仕事もしていますし、勉強との両立もがんばっています。けっこう大変なことも多いのですが、苦労があるからこそアドレナリンが出てキラキラ輝けるんじゃないかと思いました」

2017年、2018年と2年連続で全日本吹奏楽コンクールに出場していた小松明峰ですが、2019年は代表を逃し、2020年はコロナ禍でコンクールは中止に。

「中止が決まったときは『3年生の先輩方は最後の年なのにコンクールに爪痕残せんのか……』と思いました。でも、休校明けに会った先輩方はすごく明るかったので、『8月の定期演奏会に向けてがんばろう』と私たちも前向きになることができました」

今年、心優さんは副部長に選ばれ、持ち前の明るさと、吹奏楽部に入ってから身についたという行動力で部員たちを引っ張っています。

「一人一人が違う考えを持った人間が集まっているので、嫌なことや反発し合うこともあります。何か問題が起こって誰かが行動しなきゃいけないとき、まず先陣を切るのが自分の役目だと思っています。以前は人目が気になったりしていたんですけど、いまはもう『誰にどう思われてもいいや!』と思い切って行動しています」

演奏でもみんなを引っ張る心優さん(後列中央)

今年のコンクールの自由曲は、サミュエル・バーバー作曲の《メディアの復讐の踊り》。実は、2017年に小松明峰が全国大会に出場したときと同じ曲です。

「この曲になってすごく嬉しいです。いまはまだコンクールがちゃんと全国大会まで行われるのか少し不安がありますけど、私たち3年はコンクールが終わったところで引退なので、全国大会に出場して10月下旬まで部活をしたいです。私はよく泣きながら音楽研究室に来て先生に愚痴を言ったりすることもあるんですけど(笑)、この吹奏楽部が大好きなので、少しでも長く活動していたいんです」

今年のスローガンは『突破』。敢えてシンプルでわかりやすい言葉を選んだ、とのことです。

木村先生によれば、小松明峰のある石川県小松市には、2019年に全国大会に初出場した小松市立高校や県立小松高校など力のあるバンドがありますが、ライバルというよりはともにがんばる仲間という感覚なのだそうです。

今年は《メディアの復讐の踊り》で捲土重来を期する小松明峰高校吹奏楽部。今回の須川展也さんのレッスンを大きな刺激としながら、ぜひ「吹奏楽の甲子園」を目指して音楽を磨き、目の前の壁を『突破』していっていただきたいと思います。

須川さん、オザワ部長も入って、最後にみんなで記念写真!



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