恐れていたことが現実に…

全日本アンサンブルコンテストが史上初の中止となり、東京オリンピックが延期となり、インターハイの中止が決まり、静岡県がコンクール県大会を行わないと発表し、緊急事態宣言が延長され……。

新型コロナウイルスの影響によって次々に事態が動いていく中、おそらく多くの人が予想(予感)していたことが現実となりました。

次の3つの大会の中止が発表されたのです。

・全日本吹奏楽コンクール
・全日本マーチングコンテスト
・全日本小学生バンドフェスティバル

いずれも10〜11月という秋の季節に行われる予定だった全国大会です。

秋にコロナがどうなっているかわからず、まだ時間もあります。ですが、コンクールはまず最初の予選が東北地方で7月上旬からスタートするスケジュール。各地で休校が続いており、もし学校が再開されても部活動ができるかはわかりません。また、新型コロナウイルスに対する明確な対処法も確立されていない現時点で判断するとなると、「秋の全国大会開催は厳しい」という結論になることもやむを得ないところでしょう。

これは吹奏楽界だけの問題ではなく、社会全体、世界中で同時に起こっている問題。スケールが非常に大きく、また、人の命がかかわる深刻な問題です。

おそらく連盟の先生方も、「音源審査でできないか」「選抜方式でもやれないか」などと様々な可能性を検討し、参加する学生や楽団員の思いに応えられるよう議論を重ねてくださったのだろうと思います。

無観客というアイデアもあったかと思いますが、吹奏楽コンクールやマーチングコンテストについては参加者だけでもかなりの数になります。移動の間や直前練習・チューニングといった場面でどうしても3密となってしまうため、3密になっても問題ない状況(新型コロナウイルスが終息する、ワクチンや治療法が確立される等)になるか、もしくは3密にならずに実行できる方法が生み出されるかしない限りは難しいものがあります。

また、無観客ということは入場料収入がゼロになるということで、それでは運営が厳しい地区もあることでしょう。

全日本吹奏楽連盟の公式サイトでは、理事長の丸谷明夫先生の署名で「2020年度 秋季事業の中止について」という文書が公開されています。

全日本吹奏楽連盟公式サイトより(http://www.ajba.or.jp/2020shukijigyou.htm

また、全日本吹奏楽連盟とともにこれらの全国大会を主催している朝日新聞社からも次のような文書が公開されています。

朝日新聞社公式サイトより(https://www.asahi.com/corporate/info/13362503)

いずれの文書の中でも、今年の課題曲がそのまま来年の課題曲にスライドされることが発表されています。

なお、現時点では各支部大会や都道府県大会、地区大会まですべてのコンクールが中止と決まったわけではありません。ただ、静岡県では県大会の中止、北海道支部や西関東支部、東海支部、北陸支部などでも支部大会(吹奏楽コンクール、マーチングコンテスト、小学生バンドフェスティバル)の中止が発表されています。

全文は東海吹奏楽連盟の公式サイトでご確認ください(http://www.ajba.or.jp/tokai/oshirase2020_1.html

この状況をどう受け入れるべきか?

今回の発表で大きなショックを受けた人もいることでしょう。特に、今年の大会が所属する学校での最後の大会になる中学3年生、高校3年生、大学3〜4年生、小学校6年生といった学年の皆さんの嘆きは非常に深いのではないかと思います。

ここから先は私見です。

「たとえ全国大会がなくなっても、吹奏楽をする目標や目的は他にもあるし、前を向いて進んでいきましょう」

これは正しい意見ですし、オザワ部長自身もそう思います。

ただ、今すぐに前を向かなくてもいい。

自分たちにとって夢の舞台が失われてしまった。その事実が悔しいなら悔しい、悲しいなら悲しいと自分の感情を認めて、徹底的に悔しがったり、悲しがったりしていいと思うのです。

急に学校も部活もストップし、様々なイベントが中止になっていく中、皆さんはもう充分に頑張ってきました。ネガティブな感情を抑え、笑顔で必死に前向きになろうとしてきました。全国大会を心の支えにしていた人もいるでしょう。

だから、悔しかったり、悲しかったり、やりきれない気持ちで引き裂かれそうになったりするのは、当たり前なのです。涙が出てきたっておかしくないのです。

1日、3日、1週間でもいい。しっかりと自分の感情に向き合い、それを表に出して表現することも決して間違いではありません。仲間たちと感情を共有してもいいと思います。

その間、吹奏楽や楽器から離れてみるのもいいでしょう。

そして、その感情が過ぎ去った後で、改めて吹奏楽や部活のことを考えてみてください。

自分にとって吹奏楽とは何なのか、吹奏楽部や楽団とは何なのか。

ときには先生や仲間とぶつかり合いながらも、みんなで一緒に音を出したときの気持ちよさ、ハーモニーが揃ったときの幸福感、できなかった難しい箇所を克服できたときの達成感、ステージで演奏を披露して拍手をもらう喜び……。

部活が終わった後の帰り道、「じゃあね」と仲間に手を振ったときの少し切ない感じ。

音楽室の窓から一緒に見た夕焼け。

当たり前のように校内に響いていた楽器の音……。


吹奏楽コンクールには賛否両論あります。ですが、オザワ部長は吹奏楽コンクールが大好きですし、必要なものだと思っています。

世界でもトップクラスと言われる日本の吹奏楽のレベルをここまで向上させたのはコンクールという明確な目標があったからだと思いますし、日本中の吹奏楽部員・団員が参加するからこそその価値(目標としての価値)も高まります。

コンクールは吹奏楽界で共通の話題となって、学校や地域の枠を超えたコミュニケーションや交流を生み出すエネルギーにもなります。

それぞれの地区、都道府県、支部、全国……と大会ごとに多くのバンドや指導者などが集まる一種のフェスティバルの面もあります。

コンクールの結果も大切ですが、コンクールを通して得られた技術や音楽的な感性、知識、経験、友情、一体感、嬉し涙や悔し涙、思い出といったものが人生の宝になっていきます。次のステージで輝くための糧になります。

全力で挑むからこそ、得られるものが多くなるのです。

全日本吹奏楽コンクール中学校/高校の部の会場である名古屋国際会議場。

こういったテーマで思考するとき、思い出す2つの学校があります。

『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い。』(KKベストセラーズ)で取材をした小松市立高校(石川)と東海大学付属大阪仰星高校(大阪)です。

この2校は昨年の全日本吹奏楽コンクールに念願の初出場を果たしました。

2019年度の小松市立高校吹奏楽部。顧問は安嶋俊晴先生。
2019年度の東海大学付属大阪仰星高校吹奏楽部。顧問は藤本佳宏先生。

いずれの支部でも常連校がいたので、「どうせ代表に選ばれるなんて無理だろう」「そこまで頑張っても意味がない」と前もって諦めてしまうこともできたでしょう。あるいは、本気で頑張っても報われないことを恐れ、全力を注がないことによって自分自身が傷つかないように保険をかけておくということもできたでしょう。

しかし、小松市立と東海大仰星の部員たちは「今年こそ全国大会に行ける」と信じ、そのつもりで努力を重ねていました。それが、両校の部員たちが書き残したノートに記されていました。

だからこそ、全国大会への扉が開かれたのです。

たとえ、代表になれなかったとしても、きっと両校の部員たちは「すべて無駄だった」と思うことはなかったでしょう。

東海大仰星の「私たちの決意」と題されたノートの最後のページ。関西大会当日に「みんな本当にありがとう!」と書いた藤本佳宏先生に対し、部員たちから「終わりじゃないですよ」との返事が。全国大会初出場という希望を信じて進んだ先に、夢の扉が開かれた。

どんなわずかな光でも、今はまだ見えないものでも、「希望」を抱いて進んでいくこと。

いや、進んでいくからこそ、「希望」が見えてくる、「希望」のほうが近づいてきてくれるのかもしれません。

もしかしたら今、全日本吹奏楽連盟や各支部、都道府県の連盟では全国大会に代わる何かのイベントを検討しているかもしれません。

日本管楽合奏コンテスト、全日本高等学校選抜吹奏楽大会、シンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会、全国ポピュラーステージ吹奏楽コンクール、といった大会もあります。

定期演奏会を今まで以上に盛り上げたり、人数を分割してアンサンブルやジャズ、バンド形式での演奏にチャレンジしたりすることもできるでしょう。

テレワーク合奏の可能性をさらに追求していくこともできます。

それぞれの学校の顧問の先生、指導者の方々も、全国大会に代わる目標を考えてくださっていることでしょう。

「希望」を持って進んでいけば、吹奏楽コンクールとは別の場所で輝けるかもしれません。ただ、輝くためには、努力を続けていることが必要です。

きっとどこかに「希望」はあります。


「自分にはどうにもできないこと」は、いくら考えても、誰かを批判しても、どうにもなりません。それは、最終的には受け入れるしかないのです。

その代わり、「自分にできること」に全力を注ぎましょう。

「過去」と「他人」は変えられませんが、「未来」と「自分」は変えられます。

オザワ部長自身も大好きな吹奏楽のため、また、皆さんが吹奏楽や部活動を楽しむことができるよう、知恵を絞りながら頑張っていきたいと思います。